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IRのつくり方。

資本主義の主役を、お金から人間に。 【 IRのつくり方。第3回 】

中村 研太

株式会社Figurout 代表取締役

こんにちは、インクデザイン樋田です。

私たちインクデザイン株式会社では、決算説明資料や中期経営計画、統合報告書など、主にIR領域に特化したデザインコンサルティングを提供しています。
本ページでは「IRのつくり方。〜企業価値を伝える仕事の、その裏側へ。〜」と題した、社内外のIR資料や経営戦略に関わる人たちのインタビュー企画の第3回をお届けします。今回は初めて社外の方へのインタビューとなります。

インタビュー骨子

「お金だけでなく、人を主役にした資本主義を」

そんなビジョンを掲げ、IR業界のDXに挑む株式会社Figurout 。
代表取締役である中村研太さんのインタビューです。

元マーケターであり、スタートアップの経営も経験した中村さんが着目したのは、IRを「投資家向けのマーケティング」と捉える新しい視点でした。分析ツール『Hooolders Analytics』を通じてIR業界に「データの民主化」を起こし、人生を豊かにするこれからの資本主義について、お話を伺いました。

PROFILE
中村 研太 – 株式会社Figurout 代表取締役

京都大学理学部卒。新卒で医療系人材ベンチャーに入社し、人事・経理・経営企画を経験後、マーケティング全体を管掌。その後、マーケティングDXを手掛ける株式会社プリンシプルで常務取締役を務め、M&Aや資本業務提携などにも携わる。
2021年10月に「資本主義の主役を、お金から人間に」をパーパスに掲げ、株式会社Figuroutを設立。
IR支援プロダクト「Hooolders Analytics」を開発・提供し、企業と投資家のエンゲージメントを支援している。

IR担当者のPDCAを支援するマーケティング発想の「IR分析ツール」

── Q. まずは、中村さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

新卒で入った会社でマーケティング担当になり、マーケティングコンサルタントとして独立後、デジタルマーケティングを専門とするベンチャー企業・株式会社プリンシプルにジョイン。同社では、社員3人の立ち上げ時期から100人規模まで急成長する過程を経営陣として牽引しました。その後、マーケターとしての経験を活かして2021年10月に株式会社Figuroutを設立しました。

現在は株式会社Figuroutの代表取締役として、「資本主義の主役を、お金から人間に。」というパーパスのもと、IR担当者向けSaaSの開発やIR領域のDXコンサルティングを手掛けています。

── Q. Figuroutが展開されているIR向け統合分析プラットフォーム『Hooolders Analytics』とは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか?

『Hooolders Analytics』は、IR担当者が必要とするデータをワンストップで可視化するプラットフォームサービスです。株価や株主、業績指標のデータはもちろん、自社の開示やニュースが株価にどう影響したのかを分析し、IR戦略の立案に活かすことができます。

私は、IRの本質は「投資家向けのマーケティング」だと考えています。マーケティング分野では、各施策が消費者に与える影響を分析し、PDCAを回しながらコンテンツを最適化していくことが当たり前に行われています。

IR領域においても同じように、データを分析し、PDCAを回していくアプローチが欠かせません。しかし、既存のIR分析ツールの多くは投資家が良い投資判断をするためのツールです。「売り手側」、つまり企業向けの企業価値向上のためのツールはほとんどありませんでした。そのため、IR担当者は散在するデータを手作業で集めてレポートを制作しなければならず、データ集約そのものに大変な労力がかかっていました。

私の好きなドラッカーの言葉に、「測定できないものはマネジメントできない」というものがあります。
企業価値の向上を目指す上で、まずは株価の変動要因を正しく測定・可視化し、IR活動におけるPDCAを回すために有益なツールを作りたい。そうした思いから『Hooolders Analytics』の開発は始まりました。

「マルチロール」なIR業務を支える
あえて機能を絞らない総合力の高さが差別化に

── Q. 開発の様子や、その過程で気づいたお客様のニーズについて教えてください。

現在でこそ、さまざまなデータを可視化できるプラットフォームに成長した『Hooolders Analytics』ですが、サービス開始当初は株価データの集約など、IR担当者の労力を削減する機能からスタートしました。お客様からはおおむね好評だったものの、「業務効率化というメリットだけでは導入できない」という声をいただくこともありました。

お客様に人件費削減以上の価値を感じていただくためにはどうすべきか。ヒアリングを重ねるなかで、企業の規模や体制、IRの取り組みレベルによっても、抱えている課題がまったく違うという実態が見えてきました。

IR業務は、開示や報告資料の作成、株主総会の準備、投資家対応など多岐にわたり、担当者はまさに「マルチロール」な働きを求められています。そこで、私たちはあえて特定の機能に絞らず、お客様それぞれのニーズに応えて開発を進めていきました。一般的なSaaSなら、「誰もが必要とするひとつの機能」に絞って開発するのがセオリーです。ですが、こうした開発経緯が結果としてIR担当者のマルチロールな役割と合致し、サービス自体の差別化にも繋がっていると感じています。

また、お客様からのフィードバックを通じて、想定していなかった使い方を知ることもあります。たとえば、投資家面談の場で『Hooolders Analytics』の画面を使って説明されている企業もいらっしゃいます。「データがビジュアル化されているため、説得力を持たせられる」とご好評をいただいており、IR活動における活用の幅広さに可能性を感じています。
2026年7月には、新たに投資家との面談議事録を管理できる機能を実装しました。深い株主理解を促し、企業価値の向上に繋がるような機能を今後も考案していきます。

── Q. 企業向けのツールだけでなく、投資家向けのメディア『Hooolders β版』の提供もはじまりました。狙いや機能について教えてください。

『Hooolders β版』は、長期投資家に向けてリリースしたメディアです。現在、個人投資家向けのメディアは、短期で株を売買するデイトレーダー向けのものがほとんどです。閲覧数による広告収益を得る投資メディアのビジネスモデルを考えると、仕方ないことではあります。

しかし、企業側としては、長期投資する人にこそ会社のことを知ってもらいたい。既存のデイトレーダー向けメディアとは異なるアングルでIR情報を発信するメディアが必要だと考え、本サービスを開始しました。投資家向け説明会のコンテンツや、企業からのお知らせなどを発信することで、企業と長期投資家との新たな接点を創出し、魅力を深く知ってもらう狙いがあります。

今後は生成AIも活用して、想定Q&Aや決算の要約コンテンツなど、データをワンストップで集約している私たちならではの機能の実装も検討しています。

── Q. 昨今の東証市場改革や生成AIの台頭など、IR活動を取り巻く環境は激変しています。この変化をどう捉えていますか?

Figuroutを立ち上げた2021年には、IR活動に熱心に取り組む企業はまだまだ少数派だという印象がありました。しかし、2022年の東証市場改革をきっかけに、現在では多くの企業がIR活動に力を入れています。これがここ数年で最も大きな変化だと捉えています。

また、私が15年前にマーケティング業界で経験していた「データの民主化」の波が、IR領域にも及んでいます。マーケティング業界ではかつて、広告代理店だけがメディアや最新テクノロジーを駆使し、消費者動向などのデータを独占的に管理していました。しかし、DXの進展により、現在では事業者自身が詳細なデータや分析をハンドリングし、自社で管理するのが当たり前になっていますよね。

これからのIR領域においても、同様の変革が起こるのは確実です。「よくわからないから証券会社などの専門家に一任する」という受け身の状態から脱却し、企業側が主導権を持ってナレッジやデータを管理・活用していく時代になる。事業構想時に描いていた通りに、IR領域でもDXが加速していると感じています。


AI時代に問われる「お金」と「働く意味」。
利益追求の先にある非財務的価値で繋がる社会へ

── Q. なぜIR領域での創業を決意されたのでしょうか。

スタートアップの経営陣としての経験と、ひとりの投資家としての経験を通じて、投資家と企業の間に生じている「構造的なすれ違い」を是正することで、もっと良い世の中を実現できると考えたからです。

前職の株式会社プリンシプルでは、ベンチャー企業の急成長を最前線で経験しました。しかし、順調に会社の規模を拡大する一方で、より会社を成長させて投資家の期待に応えなければならないという圧力に苦しむ状況も目の当たりにしました。

経営陣として悩む反面、ひとりの個人投資家としては、期待した利回りが出ない銘柄に対して落胆してしまうという矛盾がありました。また周囲を見渡すと、お金をたくさん持っていても幸せそうに見えない経営者もいます。「資本主義のメカニズムに振り回され、なぜこんなに苦しんで働いているのだろうか」と現状に疑問を抱くようになりました。

私自身は投資も好きですし、資本主義の仕組みも肯定しています。だからこそ、もっと投資家と企業がWin-Winの関係を構築し、双方が豊かになれる世の中を目指していきたいと考えています。

── Q. 「資本主義の主役を、お金から人間に。」というパーパスに込めた想いと、その実現にあたって今後の展望を教えてください。

「資本主義の主役を、お金から人間に。」というパーパスには、誰もがお金という道具を通じて、一人ひとりの「自分の物語」に立ち返ることができる社会を創りたい、という想いを込めています。

そもそもお金は、社会の中で使われてはじめて価値が生まれる「道具」にすぎません。本来であれば「お金を使ってどうありたいか」という目的が重要なのに、これまでの社会はお金を増やすことばかりを追い求めてしまいがちです。しかし現在、AIが発展し人間の代わりに利益を生み出せる時代になり、その前提は大きく揺らいでいます。これまでのように「お金の最適化」だけを追い求める生き方は限界を迎えているのではないでしょうか。

「人間は何を追い求めるべきか」という問いに立ち返ったとき、私は「幸せな人生」だと考えています。現在の資本主義が追求するものを、単なる「利益」から「投資を通じた社会貢献」や、「投資先を育て、応援する楽しさ」も並走させることで、新たな資本主義社会が実現すると考えています。事実、すでに株式市場においても、企業の非財務的な価値に共感して投資する人々が増えてきています。

私自身、東京の職場と大阪の自宅、そして山奥の一軒家を行き来する多拠点生活をしており、地域の住民やNPOなどの利潤の最大化を優先しないコミュニティで交流しています。このような個人的に大切にしている価値観を今後の事業にも取り入れ、「人間中心の資本主義」のあり方を模索していきたいです。そうすることで、より資本主義の本質に近づき、市場の期待に応えることに繋がるのではないかと感じています。


【編集後記】

IR領域における課題の多様性やマーケティング視点の重要性や、そして事業の先にある「人間主義の資本主義」を目指すパーパスまで、これからの世の中や読み解くためのヒントが詰まったお話でした。みなさん、いかがでしたでしょうか?

今後も「IRのつくり方。」では、社内外を問わず様々なIRに携わる方にお話を伺っていきたいと思います。
どうぞお楽しみに。

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