こんにちは、インクデザイン小西です。
私たちインクデザイン株式会社では、決算説明資料や中期経営計画、統合報告書など、主にIR領域に特化したデザインコンサルティングを提供しています。
本ページでは「IRのつくり方。〜企業価値を伝える仕事の、その裏側へ。〜」と題した、社内外のIR資料や経営戦略に関わる人たちのインタビュー企画の第2回をお届けします。
インタビュー骨子
私たちインクデザインが扱うIR関連資料の中でも、統合報告書は大作です。
経営方針、事業戦略、サステナビリティ、人的資本、ガバナンス、財務・非財務情報など、扱うテーマが幅広く、かかる時間も関わる人もスケールが大きめ。
だからこそ、制作の途中で迷いが生まれやすい仕事でもあります。
今回は、統合報告書の進行管理を多く担当してきた弊社マネージャーの近藤に、進行管理者が何を見ているのか、どんなところに気をつけているのかを聞いてみました。統合報告書づくりをスムーズに進めるために大切なことを、進行管理の視点から整理できればと思います。
統合報告書づくりの全体像
近藤は弊社代表・鈴木の前職からの戦友。
現在はインクデザインのマネージャーであり、インクデザインが統合報告書を担うようになったところから、進行管理として数多くの案件にも関わってきました。
(以下インタビュー内では「近藤さん」と呼んでいます)
── Q. 近藤さんが進行管理を担うようになったきっかけは?
インクデザインが統合報告書を始めたのは、代理店さんからのつながりがきっかけです。
最初の一件に私が関わったことで、統合報告書に進行管理といえば、という感じになりました。
はじめは右も左もわからないところから、少しずつどんな風に動いていくのかを見ながら手探りで進め、そこからパワーポイントでのご提案につながり、今の形へとなってきました。
今も学び、試し、より良い方法を探しながらの最中です。
註)
インクデザインでは省力化のため「PowerPointで制作する統合報告書」というソリューションを自社のキラーコンテンツのひとつとして推奨しています。
── Q. 統合報告書の進行管理は、普通の制作進行と比べて難しい部分はありますか?
まずは、内容理解そのものの難しさがあります。
統合報告書では、経営方針や事業戦略、サステナビリティ、人的資本、ガバナンスなど、扱うテーマが多岐にわたります。単に原稿を受け取って整えるだけではなく、「クライアントの何をどう伝えるのがベストなのか」を考え、全体の主張を念頭に置きながら各パートの内容も把握しなければならず、企業理解が必要不可欠です。
何案件かを同時進行する場合は、インプット量が多大になるのでとても大変です。
一方で、私たち制作側がどこまで踏み込むべきかは、案件によって異なります。
原稿整理までなのか、構成提案まで必要なのか、企業理解から一緒に深めていくのか。
どこまで構成に関わるのか、求められる範囲が明確だと、スムーズに進行を進められます。関わり方が曖昧なままだと、途中で「そこまでお願いできると思っていた」「そこは決めてもらえると思っていた」などの認識のズレが起きやすくなりますし、進行上も迷いが生じ遅延が発生しやすくなります。
統合報告書の進行管理では、スケジュールだけでなく、制作側とクライアント側の関わり方そのものを整えることも重要になります。
── Q. 統合報告書作成の期間で、それぞれ気をつけていることはありますか?
初期:構成と企業理解に時間をかける
初期段階で大切なのは、構成と企業理解です。初期のMTGなどにおいて、今回の統合報告書の核を見つけたいと考えながらお話しします。
何を伝えたくて、今回の統合報告書では、何を軸にするのが良いのか、前年から何を変えたいのか、読み手にどんな印象を持ってもらいたいのか、など。
こうしたことを、クライアントとのコミュニケーションを通して引き出していきます。ここは、時間が押しても丁寧にやりたい部分です。最初に核が見えないまま進んでしまうと、後から構成やデザインの方向性が揺れやすくなってしまいます。
中期:制作側との認識を揃える
中期では、各担当の原稿が集まり、デザイナーが誌面イメージを起こしていくフェーズに入ります。この段階で大切なのは、制作側に必要な情報を渡し、認識を揃えることです。
クライアントとデザイナーの双方の認識を揃えないことには、アウトプットがズレて期待を外してしまったり、要らない作業をさせてしまうなどのリスクも生まれてしまいます。
初期の段階で「何を伝えたいのか」を明確にしておき、さらに関係者が広がる中期において認識を揃えられると、後の手戻りを減らすことにつながると思って進行しています。
さらに、デザイナーに依頼を渡すときも単に素材を渡すだけではなく、どの程度まで提案してよいのか、どの方向性で見せたいのか、どんなデザインへの希望があるのかといった前提を伝えることができれば、より良いものになると感じています。
用語集や表記ルール、ロゴのレギュレーション、コーポレートカラーなどがある場合は、早めに共有してもらいたいところです。
理想は、素材や前提情報を全て揃えてから制作側に渡すこと。
ただし、実際の案件ではすべてが完璧に揃うとは限りません。
そのため、どこまで合意を取ってから進めるか、どの部分は仮で進めるかを、案件の状況に応じて判断することも進行管理の役割になります。
後期:突然の混乱が起きないように先回りする
終盤で避けたいのは、いきなり依頼が来て急遽追われながら締切までに対応しなければならない状態です。
校了直前に大きな修正が入ったり、確認者が増えて想定外の指摘が出てきたり、校正や翻訳の確認範囲が曖昧なまま残っている…などがあると、最終の締切が見えていますから急ぎに急がなくてはなりません。
こうしたことが起きると、制作側に大きな負荷がかかります。だからこそ終盤になるにあたっては、事前相談、スケジュール共有、根回し、リマインドが重要になります。
このタイミングまでに確認が必要なこと。
ここで決めておかないと、後工程に影響があること。
この確認は、誰に見てもらう必要があるのか?
など、こうした確認を前倒しで行うことで、終盤の混乱を減らすようにしています。それでも不測の事態が起きてしまうことはあるのですが…
最初が肝心。制作をスムーズにするスタートとは
ここまで初期・中期・終盤で気をつけることを見てきましたが、その中でもクライアントと制作側の双方にとって特に大切なのが、最初の段階で前提を揃えておくことです。
── Q. 初回に確認できていると、制作側もクライアント側も迷いにくくなる情報はありますか?
統合報告書は、制作が進むほど関係者が増え、確認する内容も細かくなっていきます。
だからこそ、最初の段階で「誰が確認するのか」「どのルールに沿ってつくるのか」「どのようにやり取りするのか」といった前提を揃えておくことが、後の迷いや手戻りを減らすことにつながります。
最初に確認しておきたい情報は、大きく分けると次の3つです。
- ブランド・表記に関する情報
・ロゴデータ
・コーポレートカラー
・使用フォント
・社名やブランド名の表記ルール - 確認・承認の体制
・会議の日程
・確認者・承認者
・クライアント社内の確認フロー - やり取りのルール
・コメントの出し方
・レスポンス期限
・提出形式
・最新版の管理方法
特に、ロゴやコーポレートカラー、社名表記は、企業にとってとても大切な情報です。制作が進んでから修正になると、誌面全体に影響が出ることもあります。
また、確認者や承認者が複数いる場合は、誰がどの段階で確認するのかを最初に把握しておくことが大切です。後から確認者が増えたり、承認の順番が変わったりすると、スケジュールや内容の判断にも影響します。
コメントの出し方やレスポンス期限、最新版の管理方法など、やり取りのルールも同じです。小さなルールに見えても、最初に揃えておくことで「どれが最新か」「誰が返答するのか」「いつまでに判断が必要なのか」が見えやすくなり、制作中の迷いを減らすことにつながります。
こうした前提が見えていると、承認に時間がかかりそうな場合はあらかじめ余白を持たせたり、確認が必要なタイミングで早めにリマインドしたりすることができます。進行管理では、決まっている情報だけでなく、社内確認の流れや判断にかかる時間もふまえながら、制作が止まらないように調整しています。
「確定すべきこと」と「許容できる曖昧さ」を分ける
統合報告書づくりでは、最初に前提を揃えていても、進めながら決めていくことがたくさんあります。臨機応変に対応すると言えば簡単ですが、最終的によりよく仕上げるために、その都度必要な判断を重ねていくことが欠かせません。
── Q. 決定が遅れそうなとき、どう先回りしていますか?
まずは、逆算スケジュールを伝えています。
「いつまでにこれが決まっていないと、次の工程に影響が出る」
「この確認が遅れると、デザイン作業や校正期間が短くなってしまう」
ただ急かすのではなく、なぜその期限が必要なのかを伝えることが大切だと考えています。
私たちも、そしてクライアント担当者様も目的は同じで、より良い統合報告書を作ることです。
ですからクライアントも含めてワンチーム。
目的に向かって力を合わせるために、期限や承認関係の共有や折り合いをつけるべきところなどをコミュニケーションをとりながら進めたいと考えています。
とはいえ、統合報告書では、すべてを最初から確定できるわけではありません。
一方で、今決めないと進められないこともあるのが現実です。
だからこそ進行管理者は、許容できる曖昧さと、確定すべきことを分けて整理する必要があります。
仮で進められるものは仮で進め、後工程に大きく影響するものは早めに決めてもらう。
この線引きを常にしながら、クライアントと制作側の両方が動きやすい状態をつくっていきます。
依頼の出し方でアウトプットが変わる
制作が進むと、デザイナーに依頼を渡す場面も増えていきます。ただ素材を渡すだけでなく、どんな情報を添えるとデザイナーの本領が発揮できるのか。依頼の出し方にも、進行管理の視点が必要になります。
── Q. デザイナーさんに依頼を渡すとき、意識していることはありますか?
デザイナーに依頼を出すとき、ただ素材を渡すだけでなく提案の余地を探るための情報を揃えて渡したいと思っています。
いつも全部揃えられるわけではありませんが、なるべくなら揃えて渡したい。
どんな目的のページなのか
何を一番伝えたいのか
どこを合わせるべきか
どの程度変化をつけてよいか
逆に、守らなければいけない条件はどこか
これは、デザイナーの自由を狭めるという意味ではありません。むしろ、どこを自由に考えてよいのかを明確にするための整理です。
こうした判断材料があると、デザイナーは目的に沿った提案をしやすくなるのではと思っています。
統合報告書では、企業らしさや信頼感を保ちながら、読みやすく、伝わりやすい表現を考える必要があります。自由に見えるデザインの裏側にも、守るべき条件や確認すべき前提があるのです。
だからこそ、依頼の段階で「どこを合わせ、どこで提案するか」を整理して渡すことが重要だと考えています。
進行管理の本質
こうして見ていくと、進行管理の仕事は、単にスケジュールを追うことではなく、関係者が判断しやすく、動きやすい状態をつくることだとわかります。では、近藤さん自身は、その役割をどのように捉えているのでしょうか。
── Q. 統合報告書の進行管理を一言でいうと、何ですか?
「潤滑油」や「地図」といった言葉を考えましたが、最終的にいちばんしっくりきた表現が、オーケストラの指揮者、かなと。
統合報告書には、多くの人が関わります。
クライアントの担当者、社内の確認者、経営層、ライター、エディター、デザイナー、校正者、翻訳者など、それぞれが専門性を持って動いています。
ただ、それぞれが専門性を持っているからこそ、見ている範囲や判断の基準は少しずつ異なります。全員が常に同じ情報を見ているわけでもありません。
だからこそ、誰が何を決めるのか、どこまで確認が済んでいるのか、次に誰が動くべきなのかを整理する必要があります。そこで進行管理者が、案件の初めから終わりまでを見通し、関係者の動きを見ながら流れを整えるわけです。
情報を整理し、制作全体が止まらないように進めていく。
その意味で、統合報告書の進行管理は、ただスケジュールを管理する仕事ではなく、オーケストラの指揮者のように、全体の流れとそれぞれの得意を最大発揮してもらう場面を作る役割なのかな、と思います。
── Q. 進行管理が目指すゴールとは?
クライアントの前年の統合報告書を上回るものを作ること。
クライアント担当者様の社内評価が上がるものにすること。
日経アワードなど、外部からの評価にもつながるといいなとも思います。
そして、インクデザインのメンバーが制作を通して成長してくれること。
特に最後の成長について、それぞれの立場でメンバーが経験を増やしレベルが上がっていくことでインクデザイン全体のレベルが上がることを期待しています。なんだか上から目線になってしまってアレなんですけど。
その成長が、前回より一歩上の統合報告書をつくれるようになるのだと思っています。
そして、それがリピートにもつながっていくのだ、と。
また、IR部署は、社内で成果が見えづらいこともあります。だからこそ、統合報告書を通じて、社外からの評価や社内での納得感につながるものをつくれたら、クライアント担当者様にとっても意味のある仕事になります。
さらにもう一点、今年の制作が去年の工程よりも、少しでも楽になることについても意識しています。
クライアント担当者様に今までよりも効率よく苦なく統合報告書が作れた、と感じてもらいたいと思っています。
「インクデザインに頼んでよかった」と思ってもらう。
それも、進行管理が目指す大切なゴールですね。
そう思ってもらえるように、進行管理者は全体を見渡しながら、必要な情報を整え、意思決定を支え、次の一歩を示し続けていければ良いなと思っています。
もちろん、インクデザイン内でも常により効率よく、それぞれのなすべきことに、より集中できるような進行の効率向上も図っていきたいと考えています。
【編集後記】
今回、近藤に話を聞いていて印象に残ったのは、進行管理が見ている範囲の広さでした。
初期には、構成や企業理解に時間をかけ、今回の統合報告書で何を伝えるのかという核を見つける。中期には、クライアントと制作側の認識を揃え、デザイナーやライターが力を発揮しやすいように目的や前提を整理。後期には、突然の混乱が起きないように、確認事項やリスクを先回りして手を打っておく。
誰が、いつ、何を決めるのか。
どこまでが確定していて、どこからが仮で進められるのか。
どの情報が揃っていれば、関わる人が迷わず動けるのか。
こうした一つひとつを整理しながら、関係者それぞれの動きが、最終的に「伝えたいことが伝わる統合報告書」につながっていくように整えていく。近藤さんの話から、統合報告書の進行管理で気をつけていることは、その全体の流れを見ることなのだと感じました。
情報を整え、意思決定を支え、関わる人が力を発揮しやすい状態をつくる。
その先に、インクデザインの思うゴールがあります。
統合報告書づくりは、クライアント担当者様と制作側が一緒に考え、判断しながら進めていくものです。迷いや手戻りを少しでも減らし、同じ目的に向かって力を合わせられるように、インクデザインとしても進行の一つひとつを丁寧に整えていきたいと思います。
